世界が終わる音を聴いた
「私、ずっと後悔してたことがあるのよ。……人の優しさに気づけなかったこと。ずっと独りだと想っていたの。chiyaちゃんは?」
包み込まれた手が温かく、私の心の奥底をつつくような言葉に、今度こそ込み上げるものを押さえることができなかった。
頬を伝う涙を拭うこともできず、するすると溢れるままにしている。
「独りじゃないと思わせてくれる人が俊二だった。その人が居なくなったことをずっと受け入れることができなかったの」
「私は、……」
「うん」
「……誰かにすがることが怖くて、でも」
ぎゅっと、握りしめてくれる手が感情を表に出す勇気をくれる。
「ずっと独りだった……。それは自分のせいなのに」
「そう」
「みんな優しくて、でもそれは誰かの……ヒナちゃんの付属物だからで」
「うん」
「私を私として見て欲しかった」
吐き出した気持ちは、とても醜い。
強く優しい姉のせいにして、私は自分の保身を図る。
ヒナちゃんの妹、だから仕方がない。
上手くいかなかったことも、ヒナちゃんだったら違ったのかな。
何をしたって敵いっこない。
それはいつしか、自分自身への言い訳になっていく。
居なくなるべきは、本当は自分の方だったんじゃないか。
誰にとっても最良の未来は、私が居なくなることだったんじゃないか。
「誰かにすがって、何かにすがって“私”を拒否されるのが怖かった……。だから、オーディションに落ちて、もう音楽をやらないって決めたんです」
握られていた手がゆっくりと解かれて、トントンと優しくあやされる。
小さい子がお母さんにされるみたいに、優しく。
「あの頃の私も、chiyaちゃんと同じ。私の世界を変えてくれた人が居なくなったこの世界を受け入れられなくて、自棄になっていたのね。私は歌をやめるという選択はしなかったけれど。……ううん、私はむしろ歌にすがったのかもしれない。他の誰かにすがることなんて想いもしなかったもの」
私はうつむいてシキさんの言葉を受け入れる。
「恋にまつわるいろんな感情は、すべて彼のもとへ置いてきたわ。それは、今も同じ」