世界が終わる音を聴いた
「私ね、chiyaちゃん。あなたにずっと言いたかったことがあるの」
トントンと、優しいリズムが途切れて、私はようやく顔を上げる。
シキさんはその手に力を加えて、それと同じくらいの強い瞳で私を射抜く。
交わった視線が彼女の強さを私に教えてくれる。
「chiyaちゃん、ありがとう」
にこりと笑うシキさんは今まで見たどんな彼女より美しくて、私は次ぐ言葉を忘れる。
「初めて会った時のこと、覚えてる?」
問われた言葉に私は首を縦に降る。
あのときの私はまだそれでもギリギリの夢を持っていて、最後のオーディションに賭けていた。
姉のことは好きなのに、何でもそつなくこなす彼女に羨望と嫉妬を覚え始めたのはもしかしたらこの頃からかもしれない。
諦めたくない夢に向かって、オーディションに受かれば自分の存在も認めてもらえるような気がして、必死だった。
単純に歌うことが、音楽を奏でることが好きだった時期は少し過ぎていて、好きなはずなのに、といろんな感情がごちゃ混ぜになっていた。
「初めて会った時、ごめんなさい。正直、私第一印象覚えてないの。……それくらい、心を閉ざしていたのね」
ゆっくりと語られるあの頃のシキさんの気持ち。
それを懐かしむように噛み締めるように話す。
「ここに、歌を歌いに来たでしょう?“season”という存在を失った私は必死に歌っていたけれど、体は正直ね。自分の心の有りかを探して疲れきっていたのよ」
「だから……」
「そう。だから、歌ってくれる人を探していたの。別にもともとは歌うようなお店じゃないから、本当なら歌い手は居なくてもよかったの。けれど、そのステージを無くしてしまえば、私はもう戻ってこないと兄たちは思ったんでしょうね」
実際私もそう思うわ、なんてクスクスと笑う。
「でもね、ここで歌うのは中途半端な人じゃダメだったのよ。惹き付ける何かを持っていないと。……本当よ?」
私が疑うような目付きでもしていたのか、シキさんは茶目っ気たっぷりに言う。
「あなたの歌で、私、このままじゃいけないと思ったの。苦しい現実にあがいているあなたを見て、ね。ここにあなたの歌に救われた人間がいる。その事を忘れないで」