世界が終わる音を聴いた
シキさんの歌は、独特だ。
人を魅了してやまない。
彼女の歌声を聴けば、遠くへ追いやったはずの感情さえも呼び覚まされる気がするのだ。
その彼女の歌声をひとりここで聴く。
その声の最後まで、そのピアノの最後の音まで。
店内には他に余分な音はない。
余韻が響き渡り、やがて店内は静寂に包まれる。
拍手をするべきか悩んで、私は立ち上がる。
“私に”向けたその歌へ、私は拍手よりもお辞儀を選んだ。
深く、深く、頭を下げる。
思いが伝わるように、しっかりと。
30秒だったかもしれないし、1分だったかもしれない。
時間は分からないけれど、しばらくして顔を上げると、シキさんは私を見つめていた。
「ありがとう」
私が言おうとした言葉を、先に言われてしまう。
「私の方こそ、ありがとうございます」
「この歌を選んでくれてありがとう。この歌を、私に歌わせてくれてありがとう」
ぶんぶんと、顔を振る。
リクエストをしたのは、私の方だ。
「あなたが歌っていた歌だわ。私があなたに救われた、この歌で」
穏やかな空気を見計らってか、知らずか、別の足音が聞こえた。
「おまたせ、chiyaちゃん。どう?」
満足げに差し出されたギターは、そのボディから味わいを増している。
両手でその重みをしっかりと受けとる。
さっきのシキさんと同じように、ひと撫でしてから弦を弾くと美しく音を奏でた。
「……やっぱり、俊平さんにお願いしてよかった」
ありがとう、と目を細めるその顔はシキさんと似ていて、やっぱり兄妹なんだな、なんて思った。