世界が終わる音を聴いた
しばらくニコニコと様子を見ていたシキさんが、徐に口を開いた。
「リクエスト、してもいいかしら?」
「え?」
「聴きたいな、chiyaちゃんの歌」
「や、でも、本当にブランクあるし。歌もギターも覚束ないですよ」
「それでいいわよ。今のchiyaちゃんの歌が聴きたいと思うの」
「シキさん……」
にっこりと笑って、シキさんが告げた曲は、あの頃の私が好んで歌っていたうちの1曲。
多分、ここでも歌ったことがある。
ずっと昔の、きっと誰もが口ずさめる曲だ。
私は、ステージには行かず、その場でギターを抱え直してトントントン、とリズムをとって奏で始めた。
見上げてごらん、夜の星を。
あの小さな星のように、私も歌えるだろうか。
“その時”に、私は何を歌えるだろうか。
「やっぱり、素敵」
「ありがとうございます。でもやっぱりダメですね、全然弾けません」
「今から練習して取り戻せばいいじゃない」
「……はい」
“今から”か。
人に言われて思わず言葉につまる。
取り戻せるだけの時間は私にはない。
自分からようやく芽生えたやりたいことも、小さなこんなことであっけなくマイナスな気持ちに引っ張られてしまう。
こんな自分は嫌だと思うのに、長年培われた性格はそうそう変えられるものではないらしい。
「ありがとうございました」
「うん、どういたしまして。あと、こちらこそありがとう」
いつの間にやって来ていたのだろうか、オーナーとシキさん、俊平さん、3人に見送られて私はお店の扉を開ける。
来たときと同じように、カラン、とカウベルが響いた。
「……chiyaちゃん!また、歌いに来て。近いうちに、絶対」
振り返るとシキさんが私をじっと見ている。
そこに笑顔はない。