世界が終わる音を聴いた

テーブルにはご飯と焼き魚、肉じゃがと冷奴が並んでいる。
父の席にはグラスとビールも。
暑くなってきたから、今日は父もお酒が進むかもしれない。

「頂きます」

三人揃って、今度はご飯に手を合わせる。
ひょい、と器に盛り付けられた肉じゃがに手を伸ばして口に放り込む。
ほくほくとしたジャガイモがしっかりと味をつけていて美味しい。


我が家は比較的、家族仲の良い方だと思う。
食卓では会話に困ることもないし、休日が重なると家族で出掛けることもある。
喧嘩らしい喧嘩はこれといって見当たらない。
もちろんそれぞれに少なからずの不満や希望は持っていると思うけれど、それらは本人のいないところで軽口として別の相手へ(主には母から私に父の不満を、あるいは、父から母に私の不満を)吐き出されて消化されてしまうので大喧嘩になることも切迫した口論になることも無いのだ。

それはどこか呆れたような眼差しで、諦めにも似ている。
けれどその眼は呆れだけでなく、長年共にしてきた時間を愛しむような慈悲深さも含んでいる。
やれやれ全く、仕方がないな、そんな感じの。


ずっと変わらず、家族は時間を共にして、ずっと同じように、平和で優しい日常を過ごしていた。

けれど、ここ数年……正確には、この5年の間には取り戻すことのできない、かけがえのない存在を失った。
当然のように共にいた、私からしたら、生まれたその時からずっとそこにいたその人が、ずっとそこに共にあると思っていた日々が崩れ去ったのだ。
それは、心に塞がることのない穴が開いた瞬間。


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