世界が終わる音を聴いた
父の運転する車の中から、流れる景色を見ていた。
住宅ばかりの風景は20分ほど走らせるだけで、坂だらけの道に入りだだっ広い公園が見えてきた。
お墓はこの公園の奥にある。
駐車場に車を停めて、共同墓地の入り口にある水道で手を洗い、水を汲む。
両親は先にお墓へ向かい、草を引いていた。
「今日は暑いねぇ」
眩しい空を見上げて、私も雑草取りに参加しようとしゃがみこむ。
炎天下で3人で無言で作業をしていると、遠くで鳥の鳴く声がした。
「あらあら、あの鳥はもしかしたら陽奈子かしらねぇ」
母の声が少し弾んでいる。
それを受けたようにもう一度、鳥の鳴き声がした。
「本当だなぁ。陽奈子かもしれないなぁ」
「そうだね」
「ご先祖様も来てくれてるかもしれないわね。……さ、草はこれくらいで良いでしょう。お墓磨きましょ」
我が家の指揮を執るのはいつでも母で、私たちはそれに倣う。
持ってきた荷物の中から柔らかいスポンジを出して、汲んできた水で墓石を磨く。
お花も入れ換えるため、筒も洗い、綺麗にしていく。
ある程度掃除をすませて、ゴミをまとめると、心なしか周りの空気も澄んでいるように感じた。
新しいお花が活けられ、お水とお米と小さな缶ビール。
ペットボトルに用意してきたお水を墓石のてっぺんからたっぷりとかける。
「今日は暑いから、たーっぷり飲んでね」
「早いもんだなぁ、おい。もう5年も経ったんだなぁ」
「今年は忘れずに持ってきたわよ、ビールも」
「去年も暑かったのに、忘れちゃったもんね」
「そうだったな」
話ながら、笑いながら代わる代わるお水とお線香をあげて私たちは居住まいを正す。
そして並んで手を合わせてこの世界から居なくなってしまった人を想う。
もしかしたらすぐ傍にいて、もしかしたらとても遠いところに居るかもしれない人。
空気に溶けるというのはそういうことなのかもしれない。