世界が終わる音を聴いた

座っているだけで汗が伝う。
太陽は、それでも私たちを容赦なく照りつける。
目を開けると、ぴょん、とバッタが跳んできた。
太陽の下でそのバッタがなんだか、眩しく見えた。


「さぁ、帰りましょうか」
「もういい時間か?」
「予約してるんだっけ?」
「もちろんよ」
「お店についてご飯食べて、そしたらもう学くんたち来る時間よ」

ゆっくりと立ち上がり、私たちは来た道を戻っていく。
ふわりと風が吹いた。
少し小高いだけでも、風の温度が違うようで汗の滲む額が涼しい。
ふと見上げると、大きな入道雲が浮かんでいて、昔見たアニメ映画を思い出した。
例えばあの雲の中に、本当に国があったとしたら、空に逝った人たちはそこで暮らしているのかな?なんて、以前だったら思ったかもしれない。
普段は気ままに空ですごし、何かの折にこちらへと降りてくる、だとか。
遠かったはずの“そちらの世界”が、もう私には目前に迫っている。
空気にとけるということが、一体どんなものかは私には分からないけれど。
あの大きな雲まで行けるのならば、それでも良いのかもしれない。

「千夜子?」

呼ばれて私は慌てて車へ向かう。
父は既に運転席に座っていた。

「ごめんごめん」
「何かあったの?」
「ううん、入道雲が見えてね」
「そう」

私が車に乗り込んだのを確認して、父は車を発進させた。
車は来た道を通って自宅の近くへと走っていく。
見慣れた町並みを抜けて、車はそのまま一軒のお店の駐車場で止まった。


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