世界が終わる音を聴いた
店先に“創作イタリアン・十六夜”と看板が出ている、瓦葺きの屋根が立派な和風な一軒家に私たちは足を進める。
「こんにちはー」
暖簾をくぐり、挨拶をすると店内はほどよく込み合っていたが、すぐに女将さんがやって来てくれた。
和風な建物に違わず、女将さんはえんじ色の作務衣に白の前掛けといういでだち。
ともすれば店先の看板が間違いかと思える様だが、漂う香りは間違いなくイタリアンのそれだ。
「こんにちは、今日は暑いですねぇ。お待ちしてました、さぁさ、こちらへ」
店内はそれほど狭いわけでも広いわけでもなく、カウンターとお座敷と、テーブル席がほどよく設置されている。
奥には階段もあるけれど、その先はお店ではなく、住居スペースになっていると昔聞いた。
カウンターで調理をしていた、こちらもまたコックコートとは違う桔梗色の作務衣姿の大将に会釈すると、大将も同じように会釈を返してくれる。
そのまま奥のお座敷へと案内されて、室内の涼しさにホッと息を吐いた。
「ごめんなさいねぇ、忙しい時間に」
「いえいえ、とんでもないですよ。いつもご贔屓くださってありがとうございます。そしたら、お料理始めさせてもらいますね」
「お願いします」
ご挨拶だけしてくれて、女将さんはそのまま下がっていく。