世界が終わる音を聴いた
「それだけの理由で?」
「俺にとっては、それだけで十分な理由だよ」
「そう。……ありがとう、ハデス」
「俺は、仕事のなかで俺のしたいことをする。お前はどうだ?今の自分に、良しと言えるか?」
その答えは曖昧に笑って濁した。
仕方がない、とでも言うようにハデスは溜め息をついて消えた。
音楽と向き合えた今の自分には笑顔で居られる。
恋愛感情をこじらせてしまった今の自分には……何も言えない。
シンと静まりえった部屋で、私はギターを取り出した。
弦を弾き、メロディを口ずさむ。
“Find My Way”
無意識で紡いだメロディが、今の自分に重なって、笑ってしまった。
例え2日後に途切れたとしても、まだ“今”は道は続いている。
だから、ただひとつのこの道を足掻きながら彷徨いながら歩いていかなくちゃ。
この歌、歌おう。
歌を歌いにいくのに、一曲だけを歌うわけにはいかないから。
何曲か準備しないと、そう思うと時間がない。
私の歌を聴きに来る人がたくさんいる訳じゃないけど、シキさんのステージを借りるのだ。
少なくとも、音楽に向き合えている今の私に胸を張ろう。
過去の私に、未来の私に、胸を張れるように。
できることをすること。
終わりに何が見えるのか、それはその時にならないとわからないけれど、今の私ができるのは前を向くこと。
ハデスは全てを見透かすように私を見ていたけれど、今の私は、それでいいと思っている。
私ができることなんて、これくらいのものだと思うから。
夢中で練習していたら、いつの間にかすっかり夜になっていた。