世界が終わる音を聴いた
久々にギターを弾き続けていたから指が痛い。
懐かしい感覚だと思う。
ベッドには何枚ものコード譜やCDが雑然としている。
その日に向けて何を歌いたいか、いろんな曲を聴いて、いろんな歌を歌った。
その感覚も懐かしい。
悩んだ末に選曲したのは5曲。
その選んだ曲の全てが愛しい。
……私、これを歌うまでは死ねない。
初めてはっきりと、私は思った。
この世界のどこかで神様という存在が居るのなら、どうかその時まで私を生かして。
命の期限を突き付けられてから初めて強く願った。
「千夜子ー」
母の声がして、私は意識を現実に戻す。
気づくとどうやら泣いていたらしい。
瞳からこぼれ落ちていた雫を拭って下に降りていくと、ちょうど夕飯が出来上がる頃で、先にお風呂に入っちゃいなさい、と促された。
父は既にお風呂を済ませたらしく、パジャマ姿でテレビを見ていた。
いつもの日常、いつもの光景がこんなに愛しい。
先程の昂りがまだ残っているのだろうか、込み上げそうになるものを堪えて、わかったよ、とそのまま逃げるようにお風呂場へと向かった。
何故、私なのだろう?
私が居なくなってしまったら、この家には灯火が残るのだろうか?
ヒナちゃんを亡くしたとき、多くの人が涙した姿を見た。
そんな姉を誇りに思った。
それと同時に、思ったのだ。
“私が居なくなったら、悲しんでくれる人が居るのかな”
そんなことを考えた自分が嫌になる。
この人達が悲しむに決まってる。
当たり前だよ。
それだけの愛情をかけてもらって私は今も生きているじゃないか。
湯船に浸かり、私はもう一度涙を流した。