世界が終わる音を聴いた
「投げ出すなよ、命を。そんなことをしなくてもお前の命はあと1日だ」
ハデスは私の背後にいるのだろう。
後ろから声が聞こえる。
「投げ出さないよ」
「それならいいが」
「……あと、1日だ。お前は思うように生きられたか?」
その問いには頷けない。
「思うように生きられる人なんて、いないよ。きっとね」
「お前はこの生で何かを得たか?」
「どうだろう?得たものもあるけど、失ったものもきっとあるよ」
「……お前は変わらないな。いや、変わった、のか」
「それもどうだろうね。言ったでしょう、自分のことが一番、自分じゃわからないのよ。ただ……そうだな、言うなれば変わってしまっても変わらなくても、それは私自身であることに代わりがなかった、というところかな」
「違いない」
ふ、と笑う気配がして、風が吹いた。
「お?やっぱり居たな。お疲れ」
そのよく知る声に、私は後ろを振り返った。
「……花守さん」
「明日は直帰の予定だし、会えて良かった。誕生日、おめでとう」
言いながら、こちらへと歩み寄ってくる。
私と同じように柵にもたれ掛かりながら、絶妙の距離を保つ。
肩を組むでもなく、手を繋ぐでもなく、ほんのりとスペースを開けて。
「わざわざ会いに来てくれたんですか?」
「そうでもないよ?居なかったら居なかったで別に」
そういう花守さんが、ここに“わざわざ”足を運んでいる事実。
本当にこの人は気配りの人だなと思う。