世界が終わる音を聴いた
「元カノの誕生日を祝うなんて、彼女さんに怒られますよ?」
「……そうかもね。でも、まぁ偶然の産物だし」
「偶然でもないと思いますけど」
「偶然ってことにしといてよ。やましいこともないし?正直に言えば許してくれるよ」
「のろけは他所でやってください。……ていうか、それでも嫌なものは嫌だと思うんですよ。感情って、理性とは別物じゃないですか」
「言うようになったねぇ。でも、同僚の誕生日におめでとうって言うくらい普通デショ」
ただの同僚なら、という言葉は飲み込んだ。
ここまで言われてしまえばもう、素直に受けとるしかないだろう。
「ありがとう、ございます」
「うん」
満足そうに微笑むと、私に小さな袋を差し出す。
「誕生日プレゼント」
くすり、と私にも笑みが伝染する。
この袋は、私の好きなチョコクッキーだ。
そのチョイスが流石、と思う。
「……ありがとうございます」
お礼を伝えると、花守さんの笑みが深くなった。
「変わったな、芦原」
「そうですかね?」
「うん。変わったよ」
人が見て変わったと感じるのなら、そうなのかもしれない。
あの日から明日で1週間。
変われたとも、変わったとも自分ではっきりとした物は見えない。
ひとつ思うのは、自分ときちんと向き合おうと一歩を踏み出したこと、それが変わったと見えるのならそういうことなんだろう。
昨日と今日は、同じような日でも違う日だから。
ハデスは言った。
思うように生きられたか?と。
思うように生きられる人なんて、きっといなくて。
それでも足掻いて、もがいて、掴み取っていくのが“生きる”ことなんだろう。
そういう意味で言うならば、私はこの1週間、とても“生きて”いたと思える。
それがあるいは、変わった、と言うことなのかもしれない。