世界が終わる音を聴いた
どれだけの時間、ここにいたのだろう。
いつの間にか空が朱に染まっていく。
薄紫ともピンクともとれる色合いの雲が流れて、辺りを赤くする準備を始めている。
ふたりの間には穏やかな空気に包まれていて、ただ並んで空を見ていた。
「花守さん。私、明日死んじゃうみたいです」
一度はすべてを受け入れ、共に居たこの人になら話してみたいと思った。
唐突に話し出した私を、気でも触れたかと思ってるんだろう、眉間にシワを寄せている。
けれどそれに構わず言葉を続ける。
「魂の送り人?まぁ、人かどうかも定かじゃないですけど。その人が少し前に来て、私は明日死ぬんだ、って」
「それで?」
「うん、結局、いつ死ぬとかわかってもあんまり変わらないなぁって思います」
「……」
「私が居なくても、世界は回るし、きっと……どこかで命も生まれてる」
「バカだな。素直じゃないところは相変わらずか?」
花守さんがどこまでこの話を信じているかは分からないけれど、その瞳は暖かく、優しい。
この瞳が、その声が、確かに好きだった時がある。
今だって、多分。
ただそれが“恋”とは違うものだっただけで。
「素直に聞けばいいだろう?自分が居なくなって寂しいか、って」
「……私が居なくなったら、どう思いますか」
「寂しいよ」
そういった瞳が揺れていて、でも決して私に触れようとはしない。
それが私たちの距離。
元カレとか元カノとかそんな概念を越えて、この関係性を言い表す言葉は私のなかでは見つからない。