ビンの中の王子様
あまりの大嘘に寒気を覚え、さてどうしたものかと全力で考えている偽王子を、園長は目を細めて品定めするようにじっと見た。

そして、
「本当に裕香ちゃんのお姉さんのだんな様、ですか?」と言った。

「は?」

てっきり「なに馬鹿なこと言ってるんですか!」といった反応を予想していた偽王子は、想定外の質問にあわてて園長から裕香に視線を移した。

裕香の小さな後頭部から、
ふふんどーよこれ?、
というなんだか自信に満ちたオーラが発せられている。

偽王子は園長を見て、それから首をぶんぶんと縦に振った。
「はいはいはいはい。そうです。その通りです!」

園長の困惑した表情が少し緩んでいるのがわかる。

まさか、こんな嘘を信じたのか?なんでだ?
あっけに取られている偽王子の前で、裕香は堂々としゃべり続けていた。

「私のお姉さんは、家出同然でサンフランシスコに行って、親が大反対したのに、ハリウッド役者になりたがってるフーテンのアメリカ人と電撃結婚しました。」

な、なんじゃそれ??


「ええ、そのお話は裕香ちゃんのご両親からお聞きしたことがあるわ。でも、裕香ちゃん、あなたのお義兄さんはフーテンではなくて、れっきとした舞台役者さんですよ。」

「へー」偽王子は思わず感嘆符が飛び出した口を、あわてて両手でふさいだ。

「で、そのおねーさんがダンナサンを連れて帰国することになったんです。久々に愛するおねーさんに会えるんだって、私、すごく楽しみにしてました。」

「まあ、そうだったの」

なにをどう感動したのか、園長のひとみが潤んでいる。

「おねーさんから、お土産は何がいいかしら?って優しく聞かれたので、私、お菓子もダイヤもお人形もいらないから、おにーさんにコスプ・・・じゃなくて舞台衣装の、王子様のカッコウで登場してほしい!ってお願いしたんです!だって、大好きなお姉さんの結婚した大好きなおにいさんと、初めて会うんですもの。私、感動いっぱいにしたかったんです!!」
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