偽装結婚いたします!~旦那様はイジワル御曹司~
「いいんです。フラれるのも慣れてます。
こっちの世界の恋愛はうまくいかないことのほうが多い。
柳原さんは柴本さんを選んだ。それだけです」
「でも……」
「正直、好きだったけど仕方ないですよ。
俺はあの人と“結婚”はできませんしねー」
ぐさり、と胸に鋭い痛みが来た。
男同士は結婚はできない。
結婚がしたいから誰か他の女性を選ぶ、と柳原さんに言われたのなら、彼は何も言い返せなかったのかもしれない。
身を引くしかできなかったのかも。
「俺は柴本さんのことも好きですから。
あ、もちろん会社の先輩としてですけど。
幸せな家庭、作ってくださいね!」
ぐっとこらえたけど、泣きそうになってしまった。
最後のひとことでわかったけど、彼は勘違いをしている。
私と柳原さんが愛し合って結婚すると思っているのだ。
だけど本当は偽装結婚だ、なんて言えなかった。
それを言ったら余計に彼を傷つける気がして。
ゲイの人たちだって、ノーマルな人たちだって、失恋したときの痛手は同じ。
好きな人にフラれて傷つく気持ちは同じだもの。
なのに兼古くんは、笑顔で私たちを祝福してくれた。
心にたくさん傷を受けながら、婚約指輪の手配をしてくれた。
ていうか、柳原さんってひどい人だ。
兼古くんの気持ちを知りつつそんなことを頼むなんて。