偽装結婚いたします!~旦那様はイジワル御曹司~
馴れ馴れしいと誤解されかねない口調で私に書類を手渡す男……
柳原 響介(ヤナギハラ キョウスケ) 35歳
春に埼玉支店から転勤してきた人物。
私も5年前までは埼玉支店にいたから、彼とは古巣の顔見知りだ。
向こうも顔見知りの私には仕事を頼みやすいんだろう。
急ぎだの何だのと、何かっていえば私にわざわざ仕事を回してくる。
「知香ちゃん、あのね、」
「美衣子さん、もうすぐお昼休み終わります。
他の人に聞かれたらマズイですから、今晩仕事終わってからじっくり聞きますね!」
“じっくり”のところだけ力がこもってる…。
話を聞く、じゃなくて、これはもう強制的な“尋問”決定だな。
仕事が終わるとすぐに、知香ちゃんが私の腕を捕まえて会社を出た。
よく利用する居酒屋に当たり前のように連れてこられ、テーブルに腰を据えると二人でとりあえずビールを注文。
「で、何ですかあの昼休みの“精子バンク”は」
乾杯のあとのいきなりの先制パンチに、私は思わすビールを口の端からこぼしてしまった。
知香ちゃん……いくら会社の人がいないからって、そのワードを堂々と口に出すのはどうなのよ。