偽装結婚いたします!~旦那様はイジワル御曹司~
「行かないわよ」
「ん? 仕事帰りだろ?
あ、そっか。酒のほうが良かったか? 居酒屋行く?」
「だから行かないって。
私たち、友達じゃないでしょ…」
別れてから一切会っていないから、顔を見るのは3年ぶりだ。
ほんと、この男の頭の回路はいったいどうなってるんだ。
元カノである私に、自分が何をしたのか覚えてもないんだろうか。
――― どんなにあのとき私が傷ついたのかも。
「茂人は結婚したんでしょ? 噂できいた」
仕事が忙しいと嘘をつきながら二股して、私ではなくもう片方の女性と結婚した。
隠さなくても調べはついている、という表情を私がすると、ようやく彼はその謎の笑顔を少しばかり引きつらせた。
それでいい。
妻帯者である元カレと飲みに行く趣味はない。
「知ってたのか、俺が結婚したこと……」
じゃあ、とそのまま通り過ぎようとしたけれど、この男はまだ私に話しかけることをやめなかった。