夢の終わりで、君に会いたい。
「お母さんがあの人のせいでどれだけ大変なのか、わかるでしょう?」


お母さん、違うよ。

お父さんとは連絡なんてとってない。

だけど、今日は誕生日なんだよ? 

こうなった原因はなんとなくわかっていた。

お父さんの帰りが遅くなり、お母さんはそれを責めたてる。

そうするとますますお父さんは架空の言いわけで帰ってこなくなり、悪循環の繰り返しがどんどん距離を広げてゆく。

お母さんのイライラが小言に変わり、お姉ちゃんはお父さんを嫌悪しだす。



ほんの……本当にほんの少しの亀裂がどんどん大きくなって、もう取り返しがつかない。



それを、何もできずに見てきたのだから。

けれど、形式は質問でも、これは正解を間違ってはいけない問題。

本当に言いたい言葉を飲みこめば、きっとお母さんはまた笑ってくれる。


だから、私は大きくうなずく。


「うん……大変なのはわかってる」


「だったら、なんでそんなにうれしそうなのよ」


「そうだよね。ごめんなさい」


「ほんっと、朝から気分悪い」



焦げた匂いが強くなる。匂いは鼻を痛くして、視界をぼやけさせる。


「ごめんなさい」


「あ、もう! パン焦げちゃってるじゃない!」


「ごめんなさい。ごめんなさい」



涙は意思とは関係なくこぼれる。

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