夢の終わりで、君に会いたい。
のろのろと家を出ようとした時に、ちょうどお母さんが戻ってきた。


「行ってらっしゃい」


そう言ってくれたのは、機嫌が戻ったからかな。

本当に不機嫌な朝は、こんなこと言わないし。


「行ってきます」


笑顔は、また貼りつけた作り物だったとしても、幾分かは気持ちがラクになった。

そうだよ、お母さんも誕生日だから気を遣ってくれたんだ。


仰いだ空には鉛色の雲が低く流れている。


誕生日に天気が悪いなんて、これからの一年が思いやられる気分。

まぁ、たとえ天気がよくっても『誕生日で晴れなのに学校なんて』と、嘆いているだろうから同じだけど。

結局いつもと同じギリギリの時間に校門に滑りこんだ私は、教室にこだまのように響く「おはよう」に答えながら、顔にはちゃんと笑顔を作ることを意識する。

話しかけられると立ち止まり、口角をあげたまま楽しそうに話す。


それを繰り返しながら、こだまの波を抜けるとようやく自分の席にたどりつくのだ。


「鳴海、おはよう」


前の席の忍の声に軽くうなずけば、この朝の作業もゴール。


毎朝、長い航海を終えたような気分になる。
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