夢の終わりで、君に会いたい。
「え? 何が?」

聞き返しながら、曇っている忍の表情を見て「ああ」と、納得する。

少し困ったような顔で、上目遣いでこっちを見ている。



家のことか……。



「お父さん、あいかわらず帰ってきてないんだよね」


「そうなんだ」


あえてなんでもないように言ってくれているけれど、ますます困った顔になってゆくのを見て私のほうが笑ってしまう。


「なんで忍がそんな顔するのよ」


「心配だもん。鳴海のお母さんもお父さんも知らないわけじゃないし」


昔は忍もよく家に来て遊んでたっけ。

あの頃はまさかこんな風になるなんて思いもしなかったから。

昔を思い出すと、なつかしい香りが鼻をくすぐったくする。

思い出にはいつも香りがあって、だけどもうここにはなくって。


「まぁ、そうだけど」


答えながら、口からこぼれそうになるため息を飲みこんだ。

心配させちゃだめ、とまた脳が指令を出しているよう。

家のことだって、言うべきじゃなかったんだから。

なんで忍に相談しちゃったんだろう。

言わなければ気にすることもなかったはずなのに。


「なんか、気になっちゃうよね」


伝染したかのように大きく息を吐きだして忍は口をとがらせた。
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