夢の終わりで、君に会いたい。
壁にかけてある鏡に映るさえない自分を笑顔に変えて、いつもより十分はやくリビングへ行くと、

「あら、珍しい」

なんてお母さんが目を丸くしている。


「おはよ」


そう言ってテーブルにつきながらどこかホッとした。

今日はお母さん、機嫌がいいみたい。


「パン?」


「うん」


毎朝のやりとりも、その声色をいつしかチェックしている自分がいる。

トースターにパンを放りこむと、これでもかってくらいタイマーを右に回してから、お母さんは鼻歌まじりに紅茶を淹れてくれる。

どうせ数分で焼けちゃうのに、昔からのクセらしく、毎回パンが黒焦げにならないか心配ばかりする私。


今朝は、なかなかいい出だしかもしれない。


目の前に置かれた紅茶からは熱い湯気がのぼっている。

それだけでうれしくって朝なのに口もとが緩んでしまう。


「ありがと」


カップに手を伸ばそうとしたのと、足もとに置いた鞄の中でスマホがくぐもった音楽とともに震えだしたのはほとんど同時だった。
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