夢の終わりで、君に会いたい。
「電話よ」


そう言ったお母さんの声が、さっきよりも低くなったのは気のせいなんかじゃない。


「え、そう?」


あと少しでカップに届く指が行き場を失っている。

催眠術のように動かなくなった手を意識して動かして、まだやまないスマホを取り出す。

一気に大きな音で宙に逃げるメロディ。


マナーモードにすべきだったのを今さら気づいても遅い。



わかっている。



この着信音は、お父さん用に設定したものだから。

『サラリーマンブルース』というタイトルの曲を設定したあの日、たしかに私のそばでお父さんもお母さんも笑っていた。



それなのに、今は……。



立ちあがろうとした私を見てすかさず、

「隠れて出ることないじゃない」

お母さんは止めた。

そこには、さっきまでのふんわりした優しさはなく、非難するように鋭く冷たく。


「そう、だよね」


今私は、ヘラッと笑っているんだろうな。

誰かの機嫌をそこねないように、私はいつもこうして情けなく笑うだけ。

お母さんがちょっとでも笑ってくれたなら、少しはラクになると思う。



だけど、願いは叶わない。
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