夢の終わりで、君に会いたい。
「え?」


『高校生ともなると、日曜日のバイトだけだと足りないだろ?』


やわらかい声がすとんと胸に落ちる感覚。

ああ、この安心感が久しぶりすぎて泣きたくなる。

いつだってお父さんは私に優しかったから。

それはこうして私たちとの距離が離れても変わらないでいてくれるんだね。


「大丈夫だよ」


そう、私は大丈夫。

こうして声だけのやりとりが多くなっても、まだ私たちは家族だから。


『遠慮するなよ。お前には苦労かけてるから、なんでも好きなものを――』


お父さんの言葉は途中で耳から消えてしまった。

それは、いつの間にそばに来ていたお母さんが私のスマホを取りあげていたから。

無表情な顔は、お母さんの怒りのサイン。

当たり前のように耳に当てたスマホの下で、少し汚れたウサギのマスコットが右に左に揺れている。


「朝からなんですか?」


淡々とお母さんは目を閉じて投げやりに言う。

リビングにパンの焼ける匂いが漂っていた。

もうスイッチを切らなくちゃ焦げてしまうのに、動くことができないまま無音が流れる。


「だからってこんな朝はやく非常識じゃないですか」


お母さん、違うの。


ただ誕生日を祝ってくれようと電話をくれただけなの。



声にしない気持ちは、けっして伝わらない。
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