夢の終わりで、君に会いたい。
お母さんは聞こえるようにまた大きなため息をつくと、

「知りませんよ、そんなこと」

と、言ってからスマホを目の前に持ってきて指先を動かすと、それをまるで汚いものみたいにテーブルに置いた。

画面には『通話終了』の文字が浮かんでいた。


「鳴海」


自分の名前がお母さんの口から発せられると、ロクなことがない。

それが低音ならなおさらのこと。


「はい」


小さく答えるけれど、とてもその表情を見る勇気がない。

スマホの画面が消えても、手もとに寄せることもできずに見つめているだけ。


笑う、私。


そう、なんでもないことだよ。


こうして笑顔でいれば、きっと嵐は過ぎ去る。


「あの人、こうやって毎朝鳴海に電話してくるの?」


「え……ううん」


最後に電話をくれたのはいつ? 

頭をフル回転で動かすけれど思い出せない。


「そうやって、お母さんに内緒でやりとりしてるの?」


「ちが……」


焦げた匂いが鼻を汚すよう。

もう、パンはその色を濃く変えているのかもしれない。


笑えないのに笑おうとして、だけど焦げた匂いがそれを止めようとしている。
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