忘れたはずの恋
7月に入ると最初の2週間は半分くらいしか藤野君は出勤しなかった。

きっと、以前彼が言っていた『テスト』というものだろうけど。

普段は優しい顔付きが仕事中でも時々鋭くなったりしていた。



「藤野君、ちょっといい?」

お客様からの入電内容を書いたメモを持って班の中で仕事をしている藤野君に声を掛けた。

「はい」

口元がキュッ、と上に上がる藤野君。
キラキラした目を向けられるとどうして良いのかわからないくらい、ドキドキする。

おかしいなあ、年下は眼中にないぞ?

「お客様から、藤野君にこれからで良いので切手を持って来て欲しいって。
準備、今しているので出発は少し待って貰えますか?」

「はい。
出発はしばらく後なので、またそちらに取りに行きます」

忙しいのに彼は嫌な顔を一つせず、微笑んでいた。

…その笑顔、もう少し見ていたい。

名残惜しいけれど、私はその場から離れた。

…コールの田中さんが年甲斐もなく、キャアキャア言っていたのがわかる気がするな。

あ、でも本当に年下には興味ないし。

「吉永さん」

席に向かって歩いていると5班の近藤さんから声を掛けられた。

最初はポッチャリ体型だったのが締まってきて、随分スッキリした雰囲気になっていた。

「この番号、ちょっと調べて貰えませんか?」

藤野君よりは随分と落ち着いた感じの彼。

最近は田中さんの評価もうんと上がっていたよね、確か。

「お調べしますね」

私は近藤さんが持って来た用紙を手に取り、PCに向かう。

「へええ~!!」

PCに向かっていると田中さんが含み笑いをしながら近藤さんをチラッと見ている。

「田中さん、深い意味はないですよ」

近藤さんはヤレヤレ、といった様子で首を横に振った。

「何ですか?二人にしかわからないことですか?」

ちょっと除け者扱いで悔しい。

「ま、それはまた飲み会とかの別の機会にじっくりと」

田中さんがニヤニヤしながら言うと近藤さんは焦りながら

「もう、その辺で止しましょうよ」

「ええっ、気になりますよ」

思わず言うと

「じゃあ、今度、飲みに行こう!!」

田中さんが更にニヤニヤして言った。
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