忘れたはずの恋
「吉永さん」

後ろの席から声がかかるので振り返ると吉田総括から1枚の封筒を渡された。
…その封筒が水玉模様で何とも可愛らしい。

「何ですか、これ」

私は中をそっと開けてみる。

「げっ!!」

吉田総括はニコニコと笑っていた。

「まあ、スマホに送っているのと一緒のものですが。
この方がアルバムにでも貼れるかと思いまして」

「…はあ、ありがとうございます」

中は8耐で撮った、あの写真。
ここでは怖くて外に出せない。
私は封筒ごと机の引き出しの下の方に入れた。

本当に…、心臓に悪いわ。

周りがあんな写真を見たら、何て言うか。

思わず、唇をかみしめる。

こんな写真、やっぱり断ればよかった。

変な噂にならないように、祈るしかないわね。

あ…もう一つ、嫌な雲行きが。






「まあ、多少の年上だったら良いですけどね」

というのも昨日、久々に総務部の大東さんに誘われて飲みに行った。

「10とか離れたら、何だか嫌だ」

大東さんのはっきりした物の言い方に軽くショックを受ける。

「女が嵌めたっていう感じに見られると思うんですよね~」

なぜ、こんな話の流れになったかというと。

実は吉田総括の奥様は10歳年上。

それを陰で叩く人が結構いる。

職場の、色々な人の話になった時に総括の話が出てきた。

「まあ、私は本人さえ良かったら良いと思うけど」

そんな私の発言に大東さんは大笑い。

「それは総括に肩入れしているからですよ。
普通はそうは思わないと思います」

だから…

と彼女は続けて

「近藤さんは諦めてくださいね?」

…はい???

「私、狙ってるんですよ~!!
吉永さん、9歳も年上だし、眼中にはないと思うんですけど。
でも、接する機会が多いし~」

9歳『も』とは失礼な…。

「あ、あのね」

興味ないから!!って言おうって思ったのに。

「お願いですから、ここは私に譲ってください!!」





PCに向かいながら私は大きくため息をついた。

そういえば、今朝、一緒に歩いてきたけど…。

変な誤解、されていたら嫌だなあ。
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