忘れたはずの恋
「同じ局なので送別会にはならないと思いますが、吉永さん、今までありがとうございました!」

GW直前の金曜日。

総務部の皆さんが私の送別会をして下さった。

「こちらこそお世話になりました。
また集配でも頑張りますので宜しくお願い致します」

そう述べると周りから拍手が起こる。

その後、乾杯の音頭を部長が取り、会食。

総務は和気藹々、といった感じで雰囲気も良かったから離れるのは寂しい。

「集配、いいなあ…」

私の隣で呟くのは期間雇用社員の大東さん。

年齢は22歳。

高校の時に短期バイトをしていて、卒業とともに長期バイトでやって来た。
事務処理能力が高く、次の夏には正社員の登用試験を受けるみたい。

「…私は総務の方が良いけど」

思わず呟く。

「…だって、オジサンばかりじゃないですか」

私は大東さんの口を塞ぐ。

「シーッ!」

周りの様子を伺ったけれど、幸い誰にも聞かれていない。

「吉永さん、もし誰かと結婚するなら、是非披露宴に呼んでくださいね!
で、集配のイケメン、紹介してください」

明るく笑う大東さん。

「…そんな事、あり得ないと思うけど」

「えっ、じゃあ今、彼氏いるんですか?」

そんなに目を輝かせないでよ…

「いない」

「じゃあ!チャンスじゃないですか!!」

大東さん、妄想タイムに入りましたね。

「…私はきっと、結婚しない。
そんな願望もないし」

と言った瞬間。
何故かあの、若いあの子が脳裏を霞めた。

私は頭を振る。

絶対にあり得ない。

一回り…12歳年下だなんて。

「…大丈夫ですか?
頭でも痛いのですか?」

さっきまではしゃいでいた大東さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「あ、うん、大丈夫」

私は微笑んだ。
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