忘れたはずの恋
「お邪魔しますー!」

相馬課長は嬉しそうに私の隣に座ってきた。

藤野君は私の向かいに。

私はというとどこに視線を持って行っていいのかわからず、少しうつむき加減で周りの話を聞いていた。

気まずい…。

「藤野、今度のサンデーに出るんだって?」

「はい、最終戦までの調整をさせて貰う事になりました」

ああ、またレースの話ね。

俯いて聞いているフリをしよう。

「チームも力の入れようが凄いな」

「有難い事です、本当に」

藤野君の少し高い声。
それでも彼の言葉は幼さからほど遠く、力強い。

「監督が僕にもう少し自信を付けさせたいって仰っていました」

そして、心地よい声。
私は顔を上げるとこちらの様子をうかがっている藤野君がいて、慌てて顔を下に向けた。

お願いだから、もうこちらを見ないで!!

「…ここで一つ、賭けをしていいですか?」

賭けって、何?
藤野君、まだ未成年でしょ?
ここにいることも本当はどうなの?って思うわよ?

「どんな賭け?」

吉田総括が優しく藤野君に聞いた。

「次のサンデーで優勝したら…吉永さん、僕と付き合ってください」

隣で相馬課長が激しく噴く音が聞こえた。



…はい?
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