忘れたはずの恋
9月に入ったとはいえ、まだ暑い。

蒸し暑い晩夏の夜空の下、私と吉田総括はゆっくりと歩く。

「大丈夫ですか?」

その言葉に私は頷く。

「…私、藤野君に酷い事をしています?」

吉田総括の足が止まる。

私も止まり、振り返った。

「残酷、過ぎますよっ。全く…。まだまだ精神的に子供な人を虐めてどうするんですか?」

総括の口元が少しだけ上に上がった。

「だから大人の対応をしてあげてください。
彼が真剣に自分と…吉永さんに向き合おうとしているんです。
ほんの少しでも彼に好意があるのならば、吉永さんも彼に付き合ってあげてください」

そう言って少しだけ私を追い越してから振り返ると

「逃げないでくださいね?」



それはとても重い一言。



「私、色々と不安です」

俯いて唇をかみしめた。

「藤野君は勝てるんでしょうか?」

「さあ、わかりません」

「負けたら…どうなるんだろう」

「藤野の事だから、吉永さんを想いながら、諦めると思いますよ」

思わず吹き出す。

「矛盾してます」

「そうですね。でも、藤野はそうしますよ」

吉田総括の真剣な目を見て、こっそり落ち込んだ。

そうなれば、私は…。



きっと泣いてしまうと思う。
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