忘れたはずの恋
「でも、まだ全然幸平君の事を知らないでしょ?幸平君もまた…えーっと?」
むっちゃん、私の名前を知らないのに必死になって思い出そうとしている。
思わず笑ってしまった。
「私の名前は吉永 葵です」
「ああ!葵さん!!」
「って今の今まで知らなかったでしょ?」
「はははー!!バレました?」
むっちゃんの、無邪気な笑顔が私には羨ましい。
「幸平君もまだ、葵さんの事をよくわかってないと思います。
お互い、何にも知らないけれど、何か気になって仕方がない存在なのかなって…今年の夏、そう思いました」
うん…そうね。
藤野君が今、どこに住んでいるのかは知っている。
けれど誕生日は知らない。
血液型も知らない。
出身校も…。
好きな食べ物も、趣味も。
「…歳が離れている事が不安ですか?」
胸に刺さるその一言。
俯いたまま、顔を上げる事さえ出来なかった。
「そんなの、二人さえしっかりしていればどうにでもなります。
とやかく言う周りを無視できる強さがあれば良いんです」
…本当に19歳?
思わすむっちゃんを見つめてしまった。
彼女は淡々と私を見つめたまま、続ける。
「私と夫は20歳離れています。
しかも夫は私が生まれた時から知っている人。
…実の親より年上ですから」
目を見開いたまま、倒れそうになった。
「20-!?」
気が付いたら、叫んでいた。
周りにいた人がギョッとしてこちらを見つめる。
スミマセン、恥ずかしい…。
「親より年上って…」
「普通は中々ないと思いますけどネ」
むっちゃんは自分で言っていておかしかったのか声を上げて笑ったがやがて真剣な面持ちで続けた。
「本当の父と夫は親友でした。
親友であり、ライバルでもあり…二人は私や幸平君のようにサーキットで戦うライダーでした」
むっちゃんはそう言って天を見上げ、目を閉じた。
「でも、父と…私は一度も会ったことがありません。
生まれる前に事故で亡くなってしまって。私の母が妊娠したことも…知らない」
そう言ってほほ笑んだむっちゃんに私はどう返事して良いのか、わからなかった。
「色々あって、育ての父と結婚した母は私を産みました。
その経緯も全て知っている人が私の夫です。
…まあ、こういう世界は狭い世界なので色々と叩かれることも多かったですけれど。
お互い、自然でいられるんですよね。言葉にしなくても考えている事がわかる。
20歳も離れているのに、ですよ?」
むっちゃんは優しく私の手を取った。
「幸平君と葵さんはまだ出会って半年くらいだしお互いの事を全然知らないと思いますけれど…。
これからいっぱい知っていけばいいと思います。
お互いを思う気持ちが少しでもあれば。年齢なんてどうにでもなります」
そう、私も思うんだけどね…。でも。
「私には勇気がないの」
一生懸命、顔に笑みを浮かべて言った。
「藤野君はまだまだ若いし、これからもっと有名になって可愛い女の子に誘われたりしたら私なんてあっという間に捨てられるんじゃないかとか」
それが私の本心。
藤野君はそんなことしないって言っていたけれど…。
「幸平を舐めないでくださいね?」
あ、呼び捨て。
「今日のレース、幸平が勝つかどうかが本当に微妙なんです。
ここで勝ってあなたと付き合いたいって言っているんですよ?
本気なんですよ?子供の意地に見えるかもしれないけれど、子供なりに本気なんです!
一瞬でもどこかで幸平の事をカッコイイって思ったなら、受け止めてあげてください」
むっちゃんの目が座った。
「お願いします、葵さん。
あなたの存在が、あなたへの想いが今日の幸平の走りに繋がっているんです。
ほら、見てください」
むっちゃんは最終コーナーからストレートに入ってくる藤野君を指差した。
「2位との差がどんどん広がっています」
いつの間にかレースはあと残り3周となっていた。
むっちゃん、私の名前を知らないのに必死になって思い出そうとしている。
思わず笑ってしまった。
「私の名前は吉永 葵です」
「ああ!葵さん!!」
「って今の今まで知らなかったでしょ?」
「はははー!!バレました?」
むっちゃんの、無邪気な笑顔が私には羨ましい。
「幸平君もまだ、葵さんの事をよくわかってないと思います。
お互い、何にも知らないけれど、何か気になって仕方がない存在なのかなって…今年の夏、そう思いました」
うん…そうね。
藤野君が今、どこに住んでいるのかは知っている。
けれど誕生日は知らない。
血液型も知らない。
出身校も…。
好きな食べ物も、趣味も。
「…歳が離れている事が不安ですか?」
胸に刺さるその一言。
俯いたまま、顔を上げる事さえ出来なかった。
「そんなの、二人さえしっかりしていればどうにでもなります。
とやかく言う周りを無視できる強さがあれば良いんです」
…本当に19歳?
思わすむっちゃんを見つめてしまった。
彼女は淡々と私を見つめたまま、続ける。
「私と夫は20歳離れています。
しかも夫は私が生まれた時から知っている人。
…実の親より年上ですから」
目を見開いたまま、倒れそうになった。
「20-!?」
気が付いたら、叫んでいた。
周りにいた人がギョッとしてこちらを見つめる。
スミマセン、恥ずかしい…。
「親より年上って…」
「普通は中々ないと思いますけどネ」
むっちゃんは自分で言っていておかしかったのか声を上げて笑ったがやがて真剣な面持ちで続けた。
「本当の父と夫は親友でした。
親友であり、ライバルでもあり…二人は私や幸平君のようにサーキットで戦うライダーでした」
むっちゃんはそう言って天を見上げ、目を閉じた。
「でも、父と…私は一度も会ったことがありません。
生まれる前に事故で亡くなってしまって。私の母が妊娠したことも…知らない」
そう言ってほほ笑んだむっちゃんに私はどう返事して良いのか、わからなかった。
「色々あって、育ての父と結婚した母は私を産みました。
その経緯も全て知っている人が私の夫です。
…まあ、こういう世界は狭い世界なので色々と叩かれることも多かったですけれど。
お互い、自然でいられるんですよね。言葉にしなくても考えている事がわかる。
20歳も離れているのに、ですよ?」
むっちゃんは優しく私の手を取った。
「幸平君と葵さんはまだ出会って半年くらいだしお互いの事を全然知らないと思いますけれど…。
これからいっぱい知っていけばいいと思います。
お互いを思う気持ちが少しでもあれば。年齢なんてどうにでもなります」
そう、私も思うんだけどね…。でも。
「私には勇気がないの」
一生懸命、顔に笑みを浮かべて言った。
「藤野君はまだまだ若いし、これからもっと有名になって可愛い女の子に誘われたりしたら私なんてあっという間に捨てられるんじゃないかとか」
それが私の本心。
藤野君はそんなことしないって言っていたけれど…。
「幸平を舐めないでくださいね?」
あ、呼び捨て。
「今日のレース、幸平が勝つかどうかが本当に微妙なんです。
ここで勝ってあなたと付き合いたいって言っているんですよ?
本気なんですよ?子供の意地に見えるかもしれないけれど、子供なりに本気なんです!
一瞬でもどこかで幸平の事をカッコイイって思ったなら、受け止めてあげてください」
むっちゃんの目が座った。
「お願いします、葵さん。
あなたの存在が、あなたへの想いが今日の幸平の走りに繋がっているんです。
ほら、見てください」
むっちゃんは最終コーナーからストレートに入ってくる藤野君を指差した。
「2位との差がどんどん広がっています」
いつの間にかレースはあと残り3周となっていた。