忘れたはずの恋
「…はあ」

藤野君のお母さんが大きくため息をつくと今度は私の方にまっすぐ歩いてきた。

えー!!
やめてー!!来ないでー!!

「バカ息子がご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

深々と頭を下げられるので

「いえいえ、そのような事は…。逆に私、藤野君に助けられた事もあって」

「…ちょっとお話しさせていただきたいことがありますの。
向こうで二人だけでお話ししません?」

限りなく、藤野君そっくりなお母さんは息子に対してのあの厳しい表情とは打って変わってニコニコと私に笑う。

…怖いので私は何度も頷くと

「良かったー!!私たち、良いお友達になれると思います」

と私の手を握り締めて半ば強引に外へ連れて行かれた。

途中、振り返ると祥太郎さんが手のひらをヒラヒラと揺らしてニヤニヤ笑っていた。
その横の藤野君は申し訳なさそうに何度も首を横に振って、落ち込んでいた。



「一つ、お聞きしたいことがありまして」

人気が少なくなった場所まで来るとお母さんは立ち止まり、私をじっと見つめた。
その透き通りそうな目は藤野君と一緒だった。

「幸平の事、好きですか?」

ストレートな質問に少し面食らいながらも私は黙って頷いた。

「どこが?」

「あ…えっと」

急にそんな事を言われても、どう言えば良いのか。

「すぐに出てこないという事はそんなに幸平の事が好きじゃないのかなあ」

「どこ、と聞かれても難しいです」

だって、藤野君は…。
あの、優しい笑顔が浮かんだ。

「こんなに年上の私でも、包んでくれる優しさがあります」

口元に笑みを浮かべたまま、お母さんは私の話を続けるように手振りをする。

「私が前に付き合っていた人と色々あった時、一晩中、話を聞いてくれてそばにいてくれました。
…その時から特に意識するようになったと思うのですけれど、年齢の差が気になって」

「へえ、あの幸平がね」

お母さんは面白そうに笑った。

「そんな事も出来るようになったのね」

ふふふっと可愛らしい声を上げて私をまっすぐ見つめた。

「幸平、口ではあんなことを言ってますけれどね。
本当はあなたの事を諦めたくないんですよ。
でも、まだまだ子供だし、たくさんの大人の前で大胆発言をしてしまった手前、取り消せないんです」

そう言って切なそうな顔をして俯いた。

「私で良ければ、お手伝いします。
そしてどうか、幸平の事、よろしくお願いします」

お母さんは私の手を優しく握りしめた。
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