忘れたはずの恋
「面白い!それ、是非やろう!」
僕の顔を見て叫んだのは…祥太郎君。
世界の舞台でも活躍していたライダー。
この8耐は藤野のチームで第三ライダーを務める。
「彼女はどうなの?
藤野がキライなら仕方がないけど」
どんどんと藤野を追い込む。
「…祥太郎さん、さすがにダメですよ」
藤野、普段ここでは見せない困惑した表情を浮かべている。
その間に祥太郎君は吉永さんに耳打ちをする。
吉永さん、一瞬眉が真ん中に寄りましたよ。
そして慌ててマシンから降りようとすると
「さっ、後ろ、持っててやるから乗れ、幸平」
ちょっと低い声で命令をする祥太郎君。
目が座っている。
藤野はこそっと吉永さんに呟く。
おおっ…いよいよか?
真夏なのに、背中がゾクゾクする。
そして急に藤野はハンドルに手を置く吉永さんの左手の上に自分の手を添えた。
思い切っていったなー!!藤野!!!
「ひいぃっ!」
吉永さんの変な声が聞こえたかと思うと彼女はそのまま顔を真っ赤にして俯いてしまった。
…確か彼女、失礼ながら30超えてましたよね。
まるで中高生のような反応。
藤野は淡々とステップに足を掛けて吉永さんの後ろに腰を下ろした。
とはいえ、完全にはシートには座っていないので中腰状態。
それがまた。
足で吉永さんの体を挟んでいるような感じで…。
「お前、そんなに仰け反ったら逆に失礼だぞ。ほら、手はココ!」
祥太郎君が更に煽る。
藤野の手を取り、吉永さんの体を抱きしめるように前に回した。
うわーうわー!!
想像以上の密着度!!
こちらが顔を赤くしそうだ。
もう、二度とないかもしれない、この二人のこの表情。
「はい、二人とも笑って!」
そう言って僕はカメラのシャッターを押した。