忘れたはずの恋
「二人ともよく寝てる~」
早希子さんはそう言ってそっと戸を閉める。
今日は客間で真菜は藤野と仲良くおやすみ。
真菜は藤野に遊んでもらってクタクタになっても寝ずに遊ぼうとするので見かねた藤野が一緒に寝よう、と言うとあっという間に落ちてしまった。
藤野もそのまま、眠りについた。
「彼、想像以上だった」
早希子さんは感心したように続ける。
「もっと子供かと思っていた。
でも、ちゃんと考えているのね」
「そうだね」
ただ。
本当に惜しいと思うのは。
藤野は自分の可能性とか夢を追う事よりも、生涯の伴侶を得る事に必死になっている。
あれくらいのライダーなら。
またあの若さなら。
世界を目指してもおかしくないのに。
抱っこした真菜を布団の中に連れて行こうとする藤野にそれを聞くと。
「世界を目指すことだけが、ライダーの目標じゃないと思います。
僕は一般企業で働いて、それでもそれなりに結果を出せる…周りの人に元気を与えられる…。
そういうのは高慢な考え方かもしれませんけれど。
でも、そういうライダーで居たいんです。
吉田総括や相馬課長みたいに、僕が走る事で喜んでくれる方が身近でいてくれたらうれしい。
何より、僕自身が一番楽しまないと周りは楽しんでくれないと思います。
もちろん、機会があって挑戦できるなら挑戦しますけれど」
僕は彼には一生、勝てないと思う。
色々な意味で。
「23歳の時の一偉はもっと子供だったし~」
含み笑いをしないでください、早希子さん。
「もし、一偉が怪我もなくそのままレースを続けていたなら」
そんな質問、無意味ですよ。
と言いかけたがぐっと堪えた。
「私と結婚していた?」
まあ、なんと容赦ない質問ですね。
僕は大きく息を吐いた。
「していないと思います」
目が鋭くなってしまったんだろうか。
早希子さんはパッと僕から目を逸らした。
「あ、ごめんなさい」
とにかく謝る。
傷つけたかも。
「それは…やっぱり年齢?」
思わず苦笑い。
それは違う。
「僕なら今いる世界より、更に上を目指します。
現にそんな状況にいましたから」
そう、あと少しだったんだよね。
オファーが…あったんだよね。
走ってみないか?って。
でも、それをすることによって僕は会社を辞める事になるだろうし。
一瞬の迷いが…事故に繋がってしまったんだ。
だって、この仕事が好きだったから。
離れたくなかったから。
二兎追うものは一兎も得ず、だね。
「本気で挑戦するなら、彼女とかそういうのは後回しにします。
僕なら」
ちょっと、早希子さん。
そんな悲しい顔をしないでください。
「でも、僕は早希子さんに会うために…
そういう結果になってしまったんだと思います。
それはそれで本当に幸せな事なので、早希子さん安心してください」
そう言って悲しい顔をしている早希子さんに微笑んだ。
早希子さんはそう言ってそっと戸を閉める。
今日は客間で真菜は藤野と仲良くおやすみ。
真菜は藤野に遊んでもらってクタクタになっても寝ずに遊ぼうとするので見かねた藤野が一緒に寝よう、と言うとあっという間に落ちてしまった。
藤野もそのまま、眠りについた。
「彼、想像以上だった」
早希子さんは感心したように続ける。
「もっと子供かと思っていた。
でも、ちゃんと考えているのね」
「そうだね」
ただ。
本当に惜しいと思うのは。
藤野は自分の可能性とか夢を追う事よりも、生涯の伴侶を得る事に必死になっている。
あれくらいのライダーなら。
またあの若さなら。
世界を目指してもおかしくないのに。
抱っこした真菜を布団の中に連れて行こうとする藤野にそれを聞くと。
「世界を目指すことだけが、ライダーの目標じゃないと思います。
僕は一般企業で働いて、それでもそれなりに結果を出せる…周りの人に元気を与えられる…。
そういうのは高慢な考え方かもしれませんけれど。
でも、そういうライダーで居たいんです。
吉田総括や相馬課長みたいに、僕が走る事で喜んでくれる方が身近でいてくれたらうれしい。
何より、僕自身が一番楽しまないと周りは楽しんでくれないと思います。
もちろん、機会があって挑戦できるなら挑戦しますけれど」
僕は彼には一生、勝てないと思う。
色々な意味で。
「23歳の時の一偉はもっと子供だったし~」
含み笑いをしないでください、早希子さん。
「もし、一偉が怪我もなくそのままレースを続けていたなら」
そんな質問、無意味ですよ。
と言いかけたがぐっと堪えた。
「私と結婚していた?」
まあ、なんと容赦ない質問ですね。
僕は大きく息を吐いた。
「していないと思います」
目が鋭くなってしまったんだろうか。
早希子さんはパッと僕から目を逸らした。
「あ、ごめんなさい」
とにかく謝る。
傷つけたかも。
「それは…やっぱり年齢?」
思わず苦笑い。
それは違う。
「僕なら今いる世界より、更に上を目指します。
現にそんな状況にいましたから」
そう、あと少しだったんだよね。
オファーが…あったんだよね。
走ってみないか?って。
でも、それをすることによって僕は会社を辞める事になるだろうし。
一瞬の迷いが…事故に繋がってしまったんだ。
だって、この仕事が好きだったから。
離れたくなかったから。
二兎追うものは一兎も得ず、だね。
「本気で挑戦するなら、彼女とかそういうのは後回しにします。
僕なら」
ちょっと、早希子さん。
そんな悲しい顔をしないでください。
「でも、僕は早希子さんに会うために…
そういう結果になってしまったんだと思います。
それはそれで本当に幸せな事なので、早希子さん安心してください」
そう言って悲しい顔をしている早希子さんに微笑んだ。