忘れたはずの恋
幸平の気持ち
「一回り上!?」

声が大きい!!

僕は口に人差し指を当てた。
高校の同級生で時々会う充が大量の差し入れ…というより、自分が食べたいものを持って僕の家に泊まりに来たのは全日本最終戦も終わった11月下旬。

棚に飾っていた8耐の写真を見つめながら充は声を上げた。
目をまん丸くして僕を見つめる。

「…お前、よく平気だな」

「平気って何?」

「いや、そんな年上の人とよく付き合えるな」

周りはみんな、そう思うんだな…。
気付かれないように僕は小さくため息をついた。

「俺なら無理だ」

充は頭を左右に振りながら続ける。

「抱けない」

あ、そう。

「家に来てくれたら毎回してるけど」

最初の手出し出来ないストレスが爆発したらしく、付き合ってからは僕、必死。
だって、他の人に取られたくない。

「本当に幸平って変わってるな」

「そう?」

「周りは知ってるの?」

「一部は」

職場で知ってるのは吉田総括と相馬課長だけ。
知られたら…充と同じ事を言う人が多いに決まってるし、僕は良いけど悪く言われるのは彼女だ。

「バレたらどうするの?」

充、何だ…そのキラキラした目は。
結局、こういうのって好奇の目でしか見られないのか。

「バレるも何も。
そのうち結婚するからいずれはわかると思うけど」

あ、目が点になった、というのはこういう事を言うのかな。
充、瞬きひとつしてない。

「…結婚?」

「うん、おかしい?」

急に充は目を見開いた。

「お前、まだ19だろ?何言ってるの?嫁を養っていける力があるのか?今年、高卒の新採だろ?」

そういう充は国立大学で数学を学んでいる大学生。
…どうしてこんな頭のいい奴と僕が仲良いのかわからない。
高校の時から言われている。
というより、充がとにかく受験勉強に時間が欲しいから高校のランクを相当落として入学したって本人が言っていたし。
1年でクラスが一緒になり、席も隣が縁で今に至る。
時々、僕のマシンのECUのデータを見てあれやこれやと言う時もある。
まあ…充もそういうのが好きらしい。

「うん、今逃したらきっと僕は一生結婚しない」

充はしばらく僕を見つめていたが

「…まあ、お前が言うんだから余程なんだな」

少しだけ、認めてくれた気がした。
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