空色キャンディー
「おはよーっ」


ほら、来た。


電車通学の君が教室に入ってくる時間はいつも決まってるから。




『紅葉、おはよ』

「翔くんおはよ!」


君は朝から太陽のように眩しい笑顔を俺に向けてくれる。

少し開いた窓の隙間から吹き込んだ風が、君の“柔らかな”髪を揺らした。


否、

…触った事ないけど、柔らかいんだろうな。


だって、長くて真っ直ぐな髪なのに、肌を撫でるような風が吹いただけで、容易に形を変えて緩やかな曲線を描くんだから。



「翔くん起きてる?(笑)」

『一応、目は開いてる(笑)』

「でも頭は寝てるでしょ?」

『いえす』



机に突っ伏しながら君を見上げる。

そんな俺を見て笑うなんて、ズルい。

肩を小刻みに震わせながら目を細める君。
今日は少し暑いからか、頬が少しピンク色に染まっている。


俺だけに向けられた笑顔。

幸せ過ぎて、このまま溶けてしまいそうだ。


「じゃあ、そんな眠たい君に良い物をあげよう」


そう言って、まだ笑顔の余韻に浸っていた俺に、今日の空のような青いキャンディーを差し出した。

僕は、水色に白い水玉模様の包み紙を開いて、口の中へ入れた。


『…うめぇ』


爽やかなサイダー味。

ラムネチップが舌の上で転がすと溶けて、シュワシュワと泡立つ。

少し酸っぱいキャンディーのおかげで、目が冴えてくきた。


「でしょ?新発売されたキャンディーなんだけどね、このお菓子のCMしてるのが…」


そうやって、目を輝かせて好きな男性アーティストの話をし始める。
君のせいで、TVでも街中でも、その人の顔や曲に反応するようになってしまった。


『はいはい』

「ちょっと!ちゃんと聞いてる?」

『聞いてますよ』

「嘘だぁ!」

『ホントだって(笑)ねぇ、このキャンディーどこに売ってるの?』

「私の家の近くの駄菓子屋さんだよ」

『…高校生にもなって、まだ駄菓子屋に通ってるのかよ』

「どうせ私はお子ちゃまですよ〜っ」

『いや、まだ馬鹿にするような事言ってないから』

「まだって何よ(笑)私が駄菓子屋さん通って無かったら、このキャンディーも食べれなかったんだからね?感謝しなさいよっ」

『ありがとうございます』

「うわ、棒読み…」



呆れた顔さえも、愛おしい。

…自分でもかなりの重症だと思う。



「あ、もうすぐ先生来ちゃう」


そう言って、慌てて俺から離れた自分の席に座ろうとするから…

まだ、話していたくて。

もう少し、君の声と笑顔を俺だけに向けて欲しくて。


咄嗟に出たのは小学生みたいな誘い文句。


『紅葉っ』

「ん?」

進もうとした足を止めて、こちらへ振り向く君。

『…、こ、このキャンディー売ってる駄菓子屋に連れて行ってよ。今日の放課後にさ』


少し驚いた顔は、すぐに嬉しそうな笑顔に変わって。

「いいよ。連れて行ってあげる!」

ピースサインして、席に着いた。
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