空色キャンディー
静かな車内。

学校がある街の中心部からどんどん遠ざかって、窓の向こう側の世界は緑が増えていく。


ガタン、ゴトン。


一定のテンポで耳に入る音。

その度に縦に揺れる車内。



今、何駅目だろうか?

眠くなってきた…


瞼の上に睡魔の気配を感じた。

けど、それは一瞬で。



「…⁈」

肩に温かい重み。

彼女の右耳が、僕の左肩に触れた。



どうすれば、いい?

そう、何度も考えた。

睡魔はどこかへ飛んでいった。



起こそうか?

でも、

この状態で、自分の身体に沈み込む白い頬や、細く小さく柔らかい手を触れてしまったら…

絶対、心臓がもたない。


紅葉のことが、好き…

肩に触れた所から、俺の気持ちが君に伝わってしまいそう。

もう、降りる駅の名前も忘れてしまった。

このまま知らない世界へ続いていきそうな
レールの上を音を立てながら進む電車。

何分、何十分経ったのだろうか…


[次は〜○○駅〜、○○駅〜]

車内アナウンスが流れた。


君が、その駅名を合図にするように、目を覚ました。


軽くなった左肩に空気が寂しく当たった。


「ん…、あ、ごめん。爆睡してた(笑)」

恥ずかしそうに少しボサボサになった髪を、手櫛で整えながら笑う。


『すげぇ寝顔だったよ』

「うそ⁉︎」

『うそ』

「バカ」

『あははははっ』




きっと可愛い寝顔だったんだろうけど、それを見る余裕すらなかったんだ。

息が上手くできないぐらいに速く動く心臓。

身体を打つ音が君に聞こえてしまわないように、ふざけて笑った。

早く、元どおりに動いてくれよ…

そう思ったけど、そんな願いは叶わず、

「あ!」

『⁈』


君は急に立ち上がって僕の手を取り駈け出して、ブザーが鳴って今にでも閉まり始めそうな電車のドアを2人抜けた。


「はぁ〜!危なかったぁ〜!」

さっきまで乗っていた電車がホームに2人を置いて動き出す。

『危なかった〜…じゃねーよ!』

「よくあるのよねぇ…爆睡してたら乗り過ごすパターン」

『危うく荷物だけ電車に残すとこだったんだからな』

「ちゃんと降りる駅教えておいたのに、翔くんだって忘れてたじゃん!」

『うっ…』



忘れさせたのはお前が無防備に俺の肩で寝てるからだぞ。

…何て言えるわけなくて。


『…うるせー、早く駄菓子屋行くぞ』

「わ、ちょ、ちょっと⁈」


電車から降りる時に掴まれた手を握り直して、引っ張りながら改札を抜けた。


「道分かるの⁈」

『分かんねぇ』

「じゃあ、何で先に歩くのよ!」

『分かんねぇ』

「じゃあ、何で手繋いでるのよ!」

『…分かんねぇ。…ごめん』



あぁ、何やってるんだろう、俺。

未だ正常なリズムを刻まない心臓の音を誤魔化そうとした事は、君を困らせて空回りしただけ。


我に返って立ち止まった。
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