柊くんは私のことが好きらしい
心底びっくりしたあの日の私は、もういないけれど。
「……いつから……ていうか、なん、で……私?」
同じようなことを聞いた。だから柊くんは困ったように眉を下げて、微笑んでくれたんだと思う。
もしかしたら私が涙目になってるせいかもしれないし、私もあの日を繰り返したせいかもしれないけど。
「なんでって、それ言わせる?」
柊くんはまだ、あの放課後をなぞるように続けてくれるから。
やり直したいと思う。もう一度だけ、夢のような出来事を。今度こそ、消えないように。
「きっかけ、とか……」
「あー……なんだろ。ひまり前にさ、でっかいリボン付いたゴムで髪結ってたじゃん。それが目に入って、なんとなく次の日も見たら、今度は小さいリボンになってて。もしかして毎日違うヘアゴム使ってんのかなーって……まあ、それから見るようになって……」
「……」
「しょーもないだろ?」
そう照れくさそうに笑う柊くんに、私は――…恋に落ちる一瞬のきらめきを知ったんだ。
あの日からずっと、柊くんだけが輝いて見えるのに。
自信がなくて、勇気が出なくて、思い出だけを作ろうとさえした。
やり直したいなんて、都合がよすぎるけど。
無理です、って言っちゃったけど。
いつだって私は柊くんの特別になりたいって、心の奥底から願ってしまうんだ。
「……ひまり」
頬に触れてくる柊くんの行動、その仕草、ひとつでも。