柊くんは私のことが好きらしい

「帰っかー」


立ち上がった柊くんはぐんと両腕を伸ばし、私も腰を上げる。


「柊くんは部活でしょ」

「ええ……今日はもういいじゃん。今から行っても遅刻だし、部活って気分でもないし。着替えてくる」

「……せっかく観に行こうと思ったのに」


このまま外から部室棟へ向かおうとしていた柊くんの表情が、どう反応していいのかわからないみたいに固まった。


追いかけられてばかりじゃ、いられないんだ。


「先、体育館行くね」

「……え? え、何!? 観に来るって……っ緊張するんですけど!」

「あは。するんだ」

「ちょちょ、待って! 準備運動とか、いやそもそも基礎トレが……っあと30分後にして!」


困惑してる様子が拭えない柊くんに頷いたら、「絶対だからな!?」と妙な念を押されてしまう。


彼も彼で思うところがあるんだろうけど、なんだろうな、これ。してやったりな気分だ。


「30分後ね。行ってらっしゃい」


私は上靴のままなので、ひらりと手を振れば柊くんは悔しそうな、納得がいかなそうな顔をする。だけど口に出すことはせず、さっきよりは強気になった瞳で私を見ると、行ってきますと背を向けた。


なんだかちょっと、かわいかったな。走り出した背中を見送りながら思う。


――好きです、柊くん。


今度は私が伝えに追いかけるから、もう少しだけそのまま、待っていて。

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