柊くんは私のことが好きらしい
「……言わない」
言ってもいい気分だし、軽く赤面しちゃってるし、こんなの全く予定になかったけど。残念そうな柊くんに仕返しするくらいの勇気は、ある。
「だって私のが1番、おいしいはずだもん」
技術的な部分よりも、気持ち的な部分で。
言葉の意味を柊くんが呑み込むまで数秒あったように思う。だけどそれは私も同じで、言ってからボンッと恥ずかしさが破裂する。
うわあもう私、何言っちゃってんだ。これじゃあ仕返しになってないし! 顔あっつ!
くしゃり。突然、視線を落としていた私の前髪が撫でられる。
「――……」
目が合った柊くんは、ぽんぽんと何度か私の頭を叩いてから歩き出す。
返事はなかったけど、気恥ずかしそうな、悔しそうな表情が気持ちを代弁してくれていた。
「……勝った」
遠くなる背中へこぼす。咲は「勝ち負けなの?」と楽し気に問い、私は頬をだらしなく綻ばせる。
「柊くんのこと、前よりちょっとわかったかも」
私にだって、好きな人にしてほしいこと、こうであってほしいと願うことはある。
アタックにはうろたえてばかりで、無理って言うし、予想外のことだってやめてほしいって思うけど。それ以上に好きな部分が。憧れる部分が。愛しいと思う部分が、あるから。
柊くんにはいつでも自由で、飾らない自分でいてほしい。
理想通りじゃなくていい。ちょっとくらいダメなところがあったっていい。格好つけていたっていいの。
そういう柊くんを見つけて、知って、好きって言いたいな。