柊くんは私のことが好きらしい
「メグの彼女だ」
心臓が胸を突き破るかと思った。
下駄箱へローファーをしまっていた私の視界の隅で、男女5人くらいのグループがだらだらと動いている。
そっと伺えば、ひとりの女子から「違うし」と、不満げな視線をよこされた。
「え? 違うの?」
「違うってば。ありえないから、彼女とか」
「何? なんでそんな不機嫌?」
「うるさいなあー!」
そんな会話を背に、できる限り速足で教室へ向かった。
ああ……消えたい。平和な日常に戻りたい。
言いたいことはわかるよ。私だって、ありえないって思うもん。でも、それとこれとは別っていうか。
品定めするような目つき。残念な鑑定結果を含んだ視線。とてもじゃないけど平然としていられない。
普通に、それなりに楽しく、目立たず生きてきた。
地味だとか暗いとか、そんな風に自分のことを見てはいないけど。誰かの……自分とは比べ物にならないくらい、きらきら輝いている世界で生きている人の目を引くようなタイプじゃない。