柊くんは私のことが好きらしい
「でも、ていうか……今になって思ったんだけど、私、学校での柊くんしか知らないから、いきなり映画館とか水族館じゃなくてよかったなって思ったの」
初めてのデートがひとつのものに集中するような場所じゃなくて、ふたり並んでるだけで笑い合える場所でよかった。
学校の休み時間や、夜の電話にメールのやりとりだけじゃ埋まらない物足りなさを、満たしていくような時間だった。
「色んな場所に行けたから、色んな柊くんが見れたっていうか……うまく、言えないんだけど。定番でも定番じゃないプランを持ってきたのも、さすがだなあというか……えっと、つまり、」
「楽しかった?」
「そりゃあもう!」
かぶせ気味に言ってから、自分が満面の笑みだったことに気付く。だって、柊くんがとろけそうに微笑むから。
そりゃあもう、って……もっと他にかわいい言い方なかったのか私……。
「あの、だから、今日は、ありがとう、です」
「ふは。どういたしまして、です」
お互い前を向いたまま、もうすぐ電車が到着するというアナウンスを聞く。
顔が火照ってしかたないけど、伝えたかったことは言えた、かな。
……あれ。でも、柊くんに楽しかったって言ってもらえたっけ? あれっ? 私が聞かれただけじゃ――。
「………!」