柊くんは私のことが好きらしい
Ⅲ・
誰かに聞いてほしい、なんて気持ち、はじめて知った。
週明けの月曜日。席に着いても相変わらずそわそわして、思い返すとにやけちゃいそうで、打ち明けたくてたまらない。
こんな気持ちなんだなあ。
私は、というか家にはあのふうちゃんがいるから、さえぎってまで自分の話をしようとは思えなかった。
そもそも聞いてほしいと乗り気になるほど悲しいことも、嬉しいことも、なかっただけなんだろうけど。
人に話すほどのことがないのは、平和に楽しくやってるからだとさえ思っていたし、実際聞かれればそう答えていた。高校は楽しいよ。咲っていう友達ができたよ、って。
それなのに今の私はどうだろう。
昨日は話すべきかあんなに悩んで恥ずかしいからやめたのに、またぶり返してる。
かばんに付けてきた、柊くんがとってくれた小さなぬいぐるみのキーホルダー。持ってきた、クレープ屋さんのメニュー付チラシ。
まだ、誰も知らないことに落ち着かなくなる。なんでだろう。きっと誰が聞いても普通だって言いそうなのに。
今まで感じたことのないしあわせを、感じているのかもしれない。だから聞いてほしいって思うのかも。
そっと、机の上で裏返しにしていたプリクラに触れる。
事後報告になっちゃうけど、話そう。
土曜日、柊くんとデートしたんだ、って。
ノートの中にこっそりプリクラを潜ませて、咲が来るのを待った。