風の子坂を駆けぬけて
これまでの知優にとって幼稚園はなかなか億劫なものだった。
ぐずってズル休みをしたことは何度もある。
胡桃のいない時間なんて、苦痛でならない。
遊ぶ時一人きりでいるなんて、寂しくてたまらない。
誰にも言えずに、そうずっと思って過ごしていたから。
それが、今やどうだろう。
知優の隣には沙耶と明日香がいる。
一緒に笑い合えることが、どれだけ楽しくて嬉しいか。
あの頃の心細さはいつしか薄らいで、残り僅かの登園が楽しみで、名残り惜しくすら思うようになっていた。
そして、苦痛の日々乗り越え、訪れた明るい日常との未来への旅立ち。
彼女達は卒園式を迎えた。
心の成長も、気が付けばしているものなのかもしれない。
つまらないとか、寂しいとか、嬉しいとか…、そんなずっとずっと単純な気持ちしかなかったはずなのに、この日、知優はふいに初めての感情を知った。