風の子坂を駆けぬけて
好きな人のことも、今はどうでもよくなってさえいた。
明日香と健が仲良くしていたって、それはもはや日常の景色の一部になっていき溶け込んでいた。
知優の日常の景色の一部は、ノートと鉛筆、そして確かに上手くなっていく絵。
家でも学校でも描いているのだから、必然のようだった。
それだけ一人で黙々と描いている時間が多いということの表れでもあったが。
言ってしまえば、どこか諦めにも似た感情が彼女に芽生えていたのかもしれない。
『自分だけが違う、取り残された別世界にいる、そんなものだ』という諦め。
他の誰よりもたくさん話せる胡桃と居たって、あっという間に友達の輪を広めていき、むしろ自分は彼女にとってどんどん遠い存在になってしまうのではないかとすら、不安を覚える程。
こんなこと、胡桃本人に言える訳もなく。