風の子坂を駆けぬけて

「ちゆーちゃん!どうしたの?だいじょうぶ?」

ぷっくりしたほっぺた、つぶらな瞳。

健だ。


遠のいていた声が彼女の耳に鮮明に戻る。


「…た、たー君」

班は違うのに、騒ぎに気づいて駆け付けたのだ。

「ねえ、どうする?」

「大人の人呼んだ方がいいよ」

上級生達が相談していると、堂々と割って入ったのは健だった。


「ぼく、この子の家しってる。ぼくの家もすぐそこだから、今お母さん呼んでくる」

「本当?よかった、お願いね」

「ちゆーちゃん、すぐ戻ってくるから」

そう言って肩をポンと軽く触れ、健は走って行った。


彼のいつもの穏やかな眼差しがとても真剣な眼差しに変わっていた。


意識が少しずつはっきりしつつも、まだふらつく足。


呼ばれて飛んできた健の母親におぶわれ、健は知優のランドセルを持ちながら彼らの家へと運ばれた。

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