風の子坂を駆けぬけて
ソファーで横たわる知優の額には、健が率先して用意した冷却マスク。
まだぼーっとしている彼女を、健は隣で心配そうに見守った。
「…ゆっくり寝てていいんだよ。ちゆーちゃんのお母さんがね、もうすぐ迎えに来てくれるって。でもすぐ動かないほうがいいからって。だから、休んでて。あ、あと、麦茶もここにあるからね。今飲む?」
知優がコクッと短く頷くと、手元までコップを持っていき、ゆっくり彼女の手に持たせた。
少しずつ飲むと、部屋の匂い、濃いめの味の麦茶、自分の家ではなく、健の家だということが体ではっきり認識し始めた。
まさか、こんなことになるなんて思ってもみなく、ましてや好きな人の家に運ばれ看病までしてくれた事実に、途端に恥かしさと嬉しさが胸に押し寄せ、知優の目には涙がどっと浮かびボロボロ零れ落ちた。
「…っう…う、たー君、あ、りがっと…。っうう」
「へへへ、ちゆーちゃんのためなら、僕どっからでも走っていくから。まかせとけ!」