風の子坂を駆けぬけて

そう言うと変身ポーズを決めてみせ、戦隊物のヒーローの真似をする健。

ふふっと知優は笑った。

彼女にとって紛れもなく、健はヒーローそのものに感じたのだった。




しばらく経ち、帰る頃にはすっかり具合も良くなっていた。

玄関先で知優の母親が丁寧に健の母に礼を伝えると、健は名残り惜しそうに母の後ろでおもちゃの剣を振り回す。

「ほーら、ちゃんと挨拶して、ちゆーちゃんもう帰るって」

「たー君、ありがとう。助けてくれて」

知優も母親に背中を押されて感謝を伝える。

健も彼女に向き直ると

「さっき言ったこと本当だからな。忘れんなよー」

そう剣を構えながら言ってのける。



照れくさいのか、ぶっきらぼうで少しおかしい。
けれど、その一言で体が浮いてしまいそうな程、嬉しさが込み上がる。


「うん!」

知優は大きく頷きながら答えた。

彼女の母達は『何のこと?』と不思議がっていたが、知優も健も中身を話すことはしなかった。
2人しか知らない方が、何となくいいような気がして。
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