風の子坂を駆けぬけて
丸い顔にギザギザの毛。
ガオーと言わんばかりに開く大きな口。
(ひょっとして…ライオンかもしれない。)
絵が上手いことにハッとしたものの、知優はやっぱり声はかけられず、その場で眺めているだけ。
そんな彼女の視線を感じたのか、クレヨンを走らせる手を止め、沙耶はふと知優を見上げた。
「絵、すきなの?」
きょとんとした顔で聞く彼女だが、一番きょとんとしたのは知優の方だった。
その質問は本来なら、自分が聞くはずだったのでは、と。
目を瞬かせると、知優はコクッと短く頷いた。
すると沙耶は目を輝かせながら、
「じゃ一緒に書こう!」
そう言ったのだった。
初めてに等しい2人の会話。
と言っても、沙耶しか声は発していないけれど。
胡桃以外の子と遊ぶのも初めての知優は、どぎまぎしつつ、画用紙とクレヨンを引き出しから持っていき、沙耶の隣に座る。