風の子坂を駆けぬけて
「超楽しかったー!私絶対バトンにしよー!」
「私もリコーダーがいいな」
胡桃と明日香はやりたかったものがはっきりしているだけ、終えた後もやる気に満ちていた。
沙耶はいつも通りといった様子。
知優だけはやはり、緊張した面持ちを引きずっていた。
鍵盤ハーモニカは授業で経験していても苦手であり、何より雰囲気が教室とまるで違い、年上がいる独特の雰囲気にずっと飲まれていたのだ。
胡桃とくっついてバトンを選んでおけばよかったと、ちらりと頭をよぎったりもした。
しかし、彼女のハツラツとした明るさと、引っ込み思案な自分が明確に対比されてしまうことへの不快感が先立ち、一緒に行動することを避けたのだった。
ダンスの習い事の日だからと、胡桃はご機嫌なテンションを持ったまま一人先に帰って行った。
ここ数年の間に水泳の他に、習字やピアノと習い事が増え、ダンスは今年から始めたらしい。
忙しくなったことで、胡桃は知優達と一緒に帰る日が減っていた。
明日香も家の用事があるからと、途中から走って帰っていった。
知優と沙耶の2人だけになった帰り道。
互いにおしゃべりというタイプではないため、時折静かになり、春の匂いが2人をかすめていく。