風の子坂を駆けぬけて
そうした後に口を開いたのは沙耶の方だった。


「ね、ちゆーはどうだった?鼓笛隊クラブ」

「んー緊張したよ。音符だってよく分からないんだもん」

「あー、そっか。楽譜覚えるの大変かもね」

「でも、さーちゃんピアノ習ってるからできそうだよね」

「うん、なんとか。このまま鍵盤ハーモニカになるのかなあ」


何となくぼんやりした口調の沙耶。


あまり嬉しくなさそうな様子で、知優は思わず隣りの沙耶を窺う。


自分よりちょっと背の高い彼女。
視線の先は空を向いていた。

釣られて知優も空を見上げる。



4年生に上がり、下校時刻も遅くなったことで、いつも見ていた帰りの空の色と違うことにはっとした。

淡い夕焼け色に染まる空。

風の子坂では、風が桜の新緑の葉を揺らす。


「本当はね、私さ、図工クラブ入ってみたかったんだ」

「えっ…」


思いがけない言葉に知優はひっくり返ったような声が出る。


「ふふ、絵書きたくて。まぁ、でも鼓笛隊も案外やってみたら面白いのかもね」

「そうかな、私っ」

「ん?なに?」

「あー、ううん。確かにやってみないと分からないよね。うん」





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